『人類は衰退しました』の妖精さんに狂気を感じる?



人類は衰退しました』のアニメを見ている人が妖精さんに狂気を感じるのはわかる気がします。けれど原作の小説を読んでいて妖精さんに狂気を感じたということは私自身なかったように思います。
妖精さんに狂気を感じる原因として考えられることを以下に書きます。


アニメの妖精さんは強く記号化されています。具体的には口が開きっぱなし。

アニメ中はずっと口が開きっぱなしで口パクもありませんでした。口を閉じている妖精さんが描かれた場面はたぶん一度もないはずです。
ちなみに小説挿絵では口を閉じた妖精さんも描かれています、口は開きっぱなしというわけではありません(ただし絵師交代後の挿絵については存じません)。


妖精さんは原作小説の時点から既に十分記号的なキャラクターとも言えますが、アニメでは口パクなしの口開きっぱなしなのに個々の妖精さんが個性的な声で喋りまくっているため、絵としての記号っぽさは際立っていると言えると思います。また小説ではあくまで挿絵であり挿絵枚数もラノベとしては多い方ではないため、妖精さんの記号っぽさはアニメほどではないはずです。


で、だ。


小説での妖精さんは「現人類である」ということがしっかりと書かれている。現人類は妖精さんであるということが折にふれて出てくるし、キャラクターとしても妖精さんを立てていて、名もない一人称による妖精さん調査日誌という雰囲気を意外とちゃんと保っている。
しかしアニメでの妖精さんは一応現人類であるとは語られているものの、張り付いた記号的な顔が甲高い声でしゃべる不思議アイテムが擬人化したようなキャラクターという趣。アニメの主役は「わたしちゃん」であると捉えている人がほとんどなように見受けられる。100万声優パワー
小説版人退は「わたしちゃんが可愛いキャラ小説」ではなかったと認識しているが、アニメ版人退は「わたしちゃんが可愛いアニメ」という側面が相当に強い作品だ。そして妖精は主役ではなく従属の立場に退いていた。さらにその従属的なキャラである妖精はとても記号的だった。


結果として、アニメ版人退では、妖精さんはわたしちゃん以下「人類」の妄想である、というような雰囲気すらあった。
小説ではあくまで衰退という事象があり、「旧人類」と「現人類」がいて、現人類の物語としての体裁を保っていた。
けれどアニメでは衰退がない上に「旧人類」であるはずの「わたしちゃん」があまりに印象的な作品となっているため、考えずに見ていると「現人類」はいまもかわらず「旧人類」であり、妖精さんは「現人類」が狂ったとか認識が変わったとかで見出した何かでしかないのではという文脈が出ていたように思う。アニメの妖精さんは妄想の産物であって、現人類も旧人類もなく単に狂った人類がいるだけの世界だ、そう見てしまいそうな描写だった。つまり妖精さんが狂気を有しているのではなく旧人類が狂っているみたいだと。
その部分が「妖精に狂気を感じる」という感想につながるのではないか?という話でした。おしまい。




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