『催眠遊戯』レビュー


期待はとても高かったが相応な内容。しかしさらなる次作への期待もしたくなる作品だった。




催眠の過程を重視したゲームですばらしい同人作品『催眠実験』の後継作である本作。『催眠実験』がすばらしいものだったため今作への期待はそれはそれは高かった、が、残念めな内容だった。ただしっかり作っている感はある。


『催眠実験』で見せてくれた催眠をかける過程がより濃厚になりこれでもかと読めることを期待したのだけれど、『催眠遊戯』はなんか催眠をかけている過程の描写が少なく感じた。各キャラ最初の2シーンくらいの描写は濃いのだけれど、それ以降はエロ描写に走ってMC(マインドコントロール)ものみたいな雰囲気が出ていた。エロ描写の量という点からは商業化からの要請もあったのかなあとは推測する、『催眠実験』の巷で見かけるマイナス評価要因には催眠後のエロが足りないというのが多かった。ただやっぱりMCに流れたら意味がなくて、もっともっと催眠の過程が読みたかった、惜しい作品となってしまった。


エロ催眠というのは「すでにエロい関係であるところから催眠をかける」or「催眠をかけつつエロい関係になる」の2通り考えられる。『催眠遊戯』は3キャラとも後者。つまりヒロインとの関係はエロくないところからはじまる。しかし本作は抜きゲーとしての側面が強い。こういうところで「早くエロに入らなければならない」というシナリオへの要請があったのかもしれない。結果として、唐突なエロ突入描写がされることになった。最初2シーン分くらいの催眠は過程も濃くて本当に良い物なのだけれど、そこで唐突にエロ系催眠に入ってしまう、そここそをより濃く描写するべきだったのに。ただの催眠はそんなに難しいものではない、そこからいかにエロに持っていくかという点こそ催眠術を扱うエロゲだから書ける部分だったのではないか。


「搦め手の魅力」が足りない、というのが私の所見。MCでなく催眠であるならば万能ではないため、エロに持ち込むためにより巧妙に搦め手をつかなければならない。何かが万能であってはならなかった。


本作のMC的な側面は健忘の万能性にあらわれている。いや万能というわけでもないけれど、催眠でより深い催眠に導くまでの過程はしっかり丁寧に書かれているが、催眠時にあったことを忘れさせる描写は薄い。催眠の描写として省略してもいい部分とよくない部分があっただろう、カウントダウンしながらの深化などはうまく省略していたと思う、反面忘れさせる部分は省略しすぎかと思われる。あと後催眠を仕込む描写も省略しすぎ。いろいろな暗示を埋め込む部分も動物化とか幻視みたいな描写力がいりそうなもので省略しすぎだったと思う、あれではMCと変わらない。


良かったのに惜しかったという場面を挙げる。
流衣の2シーン目くらいでの感情操作、あれは良かっただけに惜しかった。感情操作は蛍火ルートで多く書かれていたが「好き」以外の感情操作をもっと見たかった。本作のマイナス点として3ルートもあるのに催眠をかける過程が似たり寄ったりのものな点があると思うが、たとえば感情操作をもっと書いていたならばそこから古典催眠ではなくもうちょっとエリクソン催眠とかの描写にもつながって色々多様化したのではないかとかも妄想する。ただ古典催眠だから悪いというわけではなかった。主人公のキャラと結びつけたコインを使うのはとてもおもしろかった、しかしそういう創意溢れる催眠導入をもっと色々見たかった。


蛍火ルートでの紫雲が催眠にかかるあたりも良かっただけに惜しかった。前作の『催眠実験』を含めて、現状の催眠エロゲのネックとして被暗示性がとても高いヒロインばかりになってしまっているというのがある。それを紫雲が打ち破れそうな可能性を垣間見せた。それだけに惜しい。3人が動物化催眠にかかったふりをする、あそこから被暗示性の異なるキャラたちにどう催眠をかけていくのか、あるいはかけないのかという部分で期待したが、時間をかけたら催眠かかりましたくらいの実にもったいない処理だった。


惜しいといえば、シーン数を増やしたのはわかるが意外と(『催眠実験』も含めて)似たり寄ったりのシーンが多いのも残念。例えば指しゃぶり、多すぎるのでは。逆に感覚操作の暗示を入れたうえで主人公がヒロインの指をしゃぶるくらいの変化はあっても良かったのでは。
催眠映えがするかという点でも問題点があったように思う。フリーズはエロゲでは映えないように思う。『催眠実験』でもフリーズはあったけど、もともと静止しているエロゲでは映えない。他方、静止時のポーズなどがおかしいものはエロゲでも良いように思う。例としては舞夜のあぐらや流衣の彫像など。ああいうものは一枚絵で映えていた。そういう意味では床に倒れ込んだ舞夜の一枚絵が本作では特に良かったように思うが、ああいのがもっとほしかったなあ。


「あ゛あ゛あ゛あ゛」系の喘ぎ声は必要なかったというか、声優ががんばっている感も出ていてギャグにしかなっていなかったというか。
「あ゛あ゛あ゛あ゛」という声がなぜああなったかというのは、比較的浅い催眠をかけられている段階での声が元気すぎたために、理性を振り切ったときの音声の描写が過剰に激しいものとなったのだろう。催眠中のもろもろの音声が仮にもう2段階くらい眠たげな感じであったならより良かっただろうになあと。


即死選択肢を導入したのは良かったのではないか。本作の催眠は催眠であってMCではありませんというのを印象づけるために効果的だった。ただしかし、即死選択肢はすべてエロに走るか否かのものであるのに、主人公がそこまでエロに強く走る動機や描写や欲が書かれていなかった。エロイことをはじめる場面も唐突だったが、エロい欲求の描写も唐突気味だった。


商業化して、ルートが3つになって6通りのエンディング。これもマイナスに働いたのだろう。真エンドに入る前のエンディングはルートがあまり関係ない上にルートでの描写と食い違うようなものと言えた。あと舞夜ルートで描写のなかった催眠があったように思う、シナリオの整合性というとなんだが、ルートが増えることで催眠深度や依存関係といったものがより深まるという物語としての筋を見失い、見事な催眠導入とMCエロとおまけエロシーンみたいになってしまっており構成は残念なものだった。
途中で二人目に行くかいかないかの選択肢は、あれでいろいろ変わるのかとおもいきやほぼ意味のない選択肢で、作りこめていなかったのだろうか。即死選択肢が短いのはいいとして、普通のエンディングはもうちょっときちんと書いてほしかった。各ルートのエンディングは余韻もなく、真エンドは実質おまけエロシーンであって、本作はきっちり締めるエンディングに欠けていた。そういう物語の筋がしっかりしているかとかエロに走る描写などという点で『催眠実験』が実に設定とうまく調和していただけに、本作が惜しい感じになったのだろう。とはいえマジシャンという設定がおもしろかったし活きていたことも疑いない。もっとやれたかもしれないが。


・まとめ
催眠導入を重視したエロゲとして他にない価値のある作品。
商業作品として分量とエロを重視したためMC的な側面が強まったのは残念。『催眠実験3』に期待。