今年読んだ本ベスト1/リチャード・パワーズ『われらが歌う時』


われらが歌う時 上
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われらが歌う時 下
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傑作。単なる小説としても傑作だろうけど、声楽を題材とした小説としては比肩する作品のない最高傑作かと。


2008年に出た本だけれども読み終えたのは今年。読めてよかった。
物理学者の父・声楽家の母・天賦の才を持つテノールの兄・伴奏ピアニストの弟・妹の5人の家族を音楽たっぷりに書いた物語。声楽が題材となっていたからかもしれないが、リチャード・パワーズの本の中では『われらが歌う時』は一段読みやすい作品に感じた。
上下巻で揃えると値が張るだとか、この作品を読む以前にパワーズを読んだことがなかったといった理由で読み終えたのは遅くなったが、まごうことなき傑作だった。特に声楽を扱った小説としてはここまで声楽関連の描写が素晴らしい上に納得のいくものは過去に読んだことがない。音楽を感じさせる小説とかは別に他にもあるだろうが、声楽・歌唱にまつわる身体感覚や考え方などでここまで「分かっている」と感じられる作品は見たことも聞いたこともなかった。下巻はピアニストである弟が物語の中心となるため声楽描写はやや減るが、声楽家である兄が物語の中心となっている上巻は声楽を扱った小説としては未曾有の傑作かと思います。ここまでの音楽描写は見たことありません。
またそうした点を別にしても、凝った文章と普通の家族小説っぽい構成で"Time stands still with gazing on her face"という歌を軸としながら展開していくさまは面白い、読ませる作品です。感想を探せば物語がいかに傑作かを説明してくれている人はたくさんいると思うので、エンタメとしての良さはそちらを参考に。




・まとめ
声楽を扱った小説でここまで描写が素晴らしい作品を私は他に見たことがない。私と趣味が近いならぜひとも薦めたい。
声楽小説としては古今無類の傑作だけど音楽小説としても必読の内容。音楽に興味がない人にはそこそこ程度かも。