今年聴いたCDベスト/フィンジ歌曲集:Martyn Hill,Stephen Varcoe,Clifford Benson(hyperion CDD22070)



B


今年はジェラルド・フィンジが私の中で流行った。フィンジの歌曲は良い。懐が深くて自分で歌ってみたくなる曲。


2枚組でフィンジの歌曲が5つ収録されている。歌手はテノールバリトンで担当曲は半々。
このCDの何が良いってフィンジの曲が良い。そしてその魅力を伝える演奏。
歌手はイギリス歌曲っぽい発声ではあるけどもイギリス的発声独特のこもった響きが少なくて聞きやすい、しなやかで良い発声。テノールは声の響きにイギリス的な芯は最低限備えながら堅さも膨らみも抑えてしなやかさが目指されている感じ、軽いというのとはやや違う。バリトンはかなり高めの響きでバリトンとしては相当高い部類な響きに思う。深い色付けは少なめで、もう一部の箇所を抜き出して聴いたらテノールに間違えそうなほど。こちらの発声も柔らかく聞きやすい。テノールよりは流石に声にやや膨らみがあるが、膨らみよりも高音域のやわらかい行き来のほうが印象に残る。
どちらの歌唱も突き動かされる何かとか壁を越えた何かがというわけではないのだが、とにかく聴きやすくて嫌みがなく、それでいて曲の魅力を十分に伝えるという点ですばらしい演奏。このCDがフィンジの歌曲の録音のベストというのじゃなく、フィンジの曲の良さを引き出しながらも押しつけがましさや衒いがない良さ。だから聴くと自分で歌いたくなる。
素晴らしいフィンジ演奏というならまた違う録音があるかもしれないが、フィンジの素晴らしさを傍らに置くためであればこの録音は優しい。