エロゲの挿入歌にまつわる違和感


挿入歌を使用するエロゲは多くあるが、挿入歌がキャラクターの台詞に重なって聞こえることに違和感がある。この違和感はなぜ生まれるのか?違和感について考えた上で挿入歌使用の現状を見てみる。
エロゲの音声はキャラクターと結びついている。実例としては『Forest』がわかりやすい。冒頭の真っ暗な画面で聞こえる誰のものとも知れない声を、プレイヤーはナレーションではなくキャラクターの声として聞くだろう。
ところが挿入歌はキャラクターとは結びついていない。挿入歌の声はどのキャラクターでもない、よくわからない誰かの歌声として聞こえてくる。この問題がどう扱われているかと言えば、プレイヤーの寛容さに任せて音声のキャラクター性をあまり厳密に扱おうとする作品は少ないというのが現状だろう。歌が聞こえたらそれは挿入歌でありヒロインたちとは無関係な人物による歌声であることが、今までのエロゲ作品と照らし合わせた文脈上何となくプレイヤーに理解されるだろう、というような意識ではないだろうか。音声とキャラクターの対応に関して厳密なことをし出せば声優の一人複数役も否定されるべきだが今だ珍しくない。このあたり、制作側の利便との兼ね合いが理由としてあることが考えられる。
さて、挿入歌の使用法には2種類の例外がある。
一つはBGMで音声を断片化したり楽器の一つとして使うことで声のキャラクターを感じさせないような曲(最近だと『暗い部屋』のBGM)で、これは歌声の主を想起させない。
もう一つは作中ヒロインが挿入歌を歌っているものである。だがこの場合はより不可解だ。音声が多重に聞こえることになる。クリックによる音声継続とかもあり音声を台詞に合わせて全部聞かないことも珍しくないであろう今、プレイヤーは音声の時間性に寛容とはいえ、歌と会話で同じ声が同時に聞こえたら、じゃあどちらが心の声でどちらが本当の声なのかという混乱をきたす。
この点しっかり演出していたのが『WHITE ALBUM2 -introductory chapter-』。カラオケ屋の場面をはじめ要所でヒロインが喋りに歌を交えて物語を進行しているが、基本的にクリック不可の自動進行となっており音声と歌声が混線しない。重要な場面で歌手ヒロインであることを思えば歌を交えながらの進行は納得の演出。また音声の聴取具合をプレイヤー任せにして声とキャラクターとの対応感をプレイヤーの寛容さに任せてはならないという意志もクリック不可演出から読み取れる。
挿入歌の問題を考えるにはアニメではあるが『Angel Beats!』も色々あって参考になる。エロゲからアニメへと舞台を変えて挿入歌演出はどう変わったかという比較が可能であるが、さてどうだったのだろうか。
まず『Angel Beats!』はエロゲ(同じ制作者の直近のエロゲとして『リトルバスターズ!エクスタシー』でも想定していただきたい)の時は挿入歌が先に述べたような不自然なプレイヤーの寛容さ任せの使用法であったが、アニメとなった今回はかなりしっかりと使い分けられていた。
Angel Beats!』では挿入歌はきっちり2種類に分けて使われていた。時間性・キャラクター性を守ったものとそうでないものである。
前者は例えばガールズデッドモンスターのライブ場面。他にも4話冒頭のゆいにゃんが歌を聴かせる→そのままOP、という場面も変則的だがそう。死んだ世界戦線の歌もそう。で、そういう時間性・キャラクター性を混乱させないきっちりした歌の使用もあるが、アニメにおける慣例であるOPとEDの歌は普通にあった。これが後者の例。挿入歌ではないが、OPEDの歌というのは誰ともしれない人の歌であることが多い。これの挿入曲的使用については、テストの回で椅子が宙に飛ぶ場面がわかりやすい。ギャグとしてED歌がいきなり流れる。誰とも知れない歌がぽんと流れてまたすぐ途切れる。他の場面での挿入歌がちゃんとキャラクターと結びついているため、物語の途中なのに急に物語外であるEDの歌が流れることがギャグになる。もし他の場面の挿入歌が誰ともしれない人の歌ばかりであったなら、テスト回の挿入歌使用も急に感動系の歌が流れるだけであり、物語外の歌という要素が減じるため視聴者の期待を裏切ることによるギャグ演出としては効果が薄くなっていただろう。
この話を続けると、キャラクターと挿入歌が結びついた『けいおん!』などのアニメを例としてあげた上でエロゲの今までの歌姫ヒロインたちは何をやっていたのか、これからは云々という話になるがこの記事はこんなところで。