『Skyprythem』レビュー


何と言うか。抽象的な物語。心に引っかかることなく通り過ぎる。
細かな事件はすぐに過ぎ行き、生活感はなく、日常は伝わってこない。
そうした空虚さが作品に一つの雰囲気を与えていて、凡作と切って捨てづらい何かを感じさせる。




音楽系エロゲとして期待のあった本作、音楽物として期待されることはおすすめしません。
一応音楽を要所要所でやっているはずなのに音楽っぽさは薄い。作品の主題が音楽に無い。
音楽系の単語もぼちぼち出てくるがまあこんなもの。音楽描写にも特筆すべき点はまあ無い。


音楽が薄いと書いたが、本作の舞台は音楽に力を入れている普通学校っぽい。
そこで音楽が薄いとはどういうことか?
答えは日常自体が薄いということ。
音楽のみならず生活感が希薄。よくあるエロゲで見られる日常描写が全然無い。起床、就寝、登校、下校、昼休み、放課後といったシーンが少ない。加えて作中期間が半年ほどあるのだが、そこを一貫性のないシーンの組み合わせで見せるため日常というものが感じられない。
しかし、だから悪いというわけではない。
普通に考えれば継ぎ接ぎで一貫性のない物語としてぐちゃぐちゃになりそうなものだが、どうして、点描画のようなシーン構成が空虚感として何となく結実しているため、とても上手いとは思えないのに切って捨てがたさを感じた。
おそらく日常描写以外も空虚的だからだろう。個別ルートに入っても共通シーンが入り交じることでヒロインとのカップルっぽさを感じさせないことであるとか、物語上の細かい事件が色々あるのにさらっと流してシーンが切り替わったりとか、事件に対してしっかりした解決シーンがなく時間が解決していたりとか、一枚絵の殆どが印象的に用いられていないだとか。告白シーンなども徹底してこの感じ。
そして、主人公の設定上ちょっとくたびれた感じで、人々との関わりを通じての「いつの間にか」「あっという間に」「気づいたら」という言葉が似合う成長物語であって、物語の希薄さと統一感はとれている。
個々のシーンは全く典型的だが、作品は過剰さが排除された学園物といった趣になっているのです。


音楽物として期待した面から言えば期待に沿わなかった作品ではある。
しかし、くどくどと上述してしまうような惜しさもあった。その惜しさも私の好みとはちょっと違う感じだったが、この作品を評価する人もいると思う。
本作の空虚感を例えるなら『ANGEL TYPE』かな。雰囲気だけならああいうタイプかと思う。




音楽は悪くないんだが、使い方が上手くないような。
既存のクラシック曲は使っていないが、文章で固有のクラシック曲を指していてその演奏シーンなのにオリジナル曲が流れたりなど、キャラクターの演奏シーンでの音楽に疑問を感じることがままあった。


システムは既読判定とかスキップに難あり。


演出は凝っているほう。立ち絵がよく動く。




・まとめ
普通の学園物だと否定されるだろう要素が積み重なって何とも言えない雰囲気があるようなないような一作。
どこか虚しいその雰囲気が合う人もいる気がするが、対象とするプレイヤーに届くのだろうか。キャッチーな絵や音楽物という設定で手にとる人向けではない可能性が高いと思う。
体験版から感じられる空虚感に惹かれる方にはあるいは薦めてもいいかもしれない。


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