『犬神使いと少年』 レビュー

展開のせいでライターの尖った部分がちょっと霞んだ気がするが、反面にじり寄って来るような物語に仕上がっている。


絵。
シナリオライター買いしたんだが、とにもかくにも絵が素晴らしかった。

ジャケット絵。公式サイトより転載。
ご覧のように水彩絵。
水彩を用いたゲームが他にどれほどあるか知らないが、とても心惹かれる絵だった。絵買いに耐える出来映え。
立ち絵も背景も水彩で描いているためか、一枚絵の数は残念ながら少なめだが、中でも蹲る白沢の絵と石切の横顔アップは実に良かった。


シナリオ。
ワンアイデアを骨子に書かれた話っぽい。極言すれば、展開が鼻につく。
ライターの過去作では『自虐の詩』『人形城の箒神』をプレイ済みだが、今作では絵師だけでなく物語の展開の仕方を変えている。
その変化自体は好ましいのではなかろうか。過去作では尖った着想が面白いものの、力押しするような展開ではあった。そのため唐突に面白いシーンが現れるが、作品全体がどうという感想は持たなかった。それが今作では積み重ねるような展開をすることによって、物語に逃げ場が無くなっている。結果、シナリオの終結が印象的に仕上がっている。
しかし、その積み重ねられる展開がどうも鼻につく。
引用が多いのは別に問題ないが、キャラクターの思考がどうも説明的であったり、キャラクターの立ち位置が引用・説明・理解に完璧に分かれていて何かの学習漫画のようであったり。まあそれらは瑣末な感想ではある。
気になるのは、ニセ科学批判的な展開部。誰にでも分かるよう書かれているともとれるし、『迷信解』を引用して展開する辺りは面白い部分もあるのだが、全体的に安っぽい。
おそらく、骨子となる「犬神=寄生虫(※ネタバレ)」という着想を書くために作られた物語であり、その着想へと如何にきれいに繋げるかというのが軸に据えられた故の展開なのだろう。痛し痒し。
過去作ではその尖った発想に感心した。今作は展開のせいか尖った部分は表にあまり出ていなかったが、それでもいくつかの発想には感心した。具体的には「犬神はメディア」というのと「白沢が足を踏んだ理由」。
また、物語の締めは随分と良かった。ぐだぐだ上に述べた中盤の展開もこの最後を書きたかったからと言われれば納得。この最後の方向性で話を読みたかったと思ってしまうが、積み重ねありきなのでまあいかんともしがたいですわな。


音楽。
BGMは曲自体は別に駄目でないとは思うが、どうもシナリオとの相性が微妙。
挿入曲は同人にしては上手いとは思うが、このシナリオと絵にこの曲?という。
ED曲は男声が聴くに耐えない。しかも所謂あざとい系の曲というのはどうだろう。
シナリオと絵が醸し出していた雰囲気を思うと、もっと音楽のトータルコンセプトをどうにかとか、いっそ効果音で頑張るとか色々あったんじゃないかと考えが浮かんでしまう内容であった。


・まとめ
なんか酷評っぽくなっている気がするが、ライター買いに耐える内容。
ちょっとつらい中盤あってこそ最後が映えるので、痛し痒しな構成と展開。
次作にも期待。


犬神使いと少年 公式サイト
人形城奇譚シナリオライター
ことりブログ:絵師