『霞外籠逗留記』 レビュー

残念賞。来年あたりワゴンの良作となっていそう。


傑作という感想を持つ人がいるのもわからないでもない。骨子となってる筋立ては面白い。だがそれが見えるまでに時間がかかり、見えてからはあっさり終わる。だがそれでも終結部の出来は良く、従って読後感は悪くない。しかし物語の筋立てが見える前の部分、特に司書や法師での筋立てが平凡に過ぎるのは足を引っ張る。


私はクリアまで積みつつプレイし4ヶ月かかった。その間評価は定まらず、ようやく今日自分なりに見えて落ち着いた。その結果は残念賞とまあ積んだゲームなりではあるんだが、これだけ語ることが多かったゲームである、なるほど傑作の資質があったんだろう。


以下気合の入ったネタばれレビュー


世界観の匂わせ方、深め方が残念賞のゆえん。読者に旅籠の多様さを伝え切れていない。
姉弟の架空建築、その箱庭は広かろう。その広大さが伝わってこない。
令嬢ルートで地図を見ながら色々と思い出すシーンがあった。そこで旅籠の納戸や蔵が無数あることが示される。あれをもっと膨らませるべき、伝えるべきだった。ああいうシーンは結局、令嬢ルートの部分と渡し守ルートの回想のみで、出てくる固有名詞は同じものだった。なぜ増やさない!地図のCGも真っ白。描けと言うんじゃない、匂わるべきだろ!
体験版は面白い。どこがいいか?旅籠に付いて歩き出すと出くわす不思議、声のみ騒がしい座敷に、不可思議な湯殿。短時間に旅籠の多様さを見せ付けたからこそだ!ああいう風呂敷をもっと広げていれば……!
テキストが冗漫であるとの感想を見た。さて何故冗漫か?上手くないストーリーを丹念に書いたからではないのか。筋立てを丁寧に書くよりも、裏設定を奔放に披瀝するような語りこそがこの物語に必要だったのではないか!特に司書ルートと法師ルート。令嬢ルートは記憶を取り戻すというのもあってあんなもんだろう。「ダンマリの納戸」とかなんとか色々出てきたが、ああいうのを、例えば令嬢ルートか渡し守ルートで名前だけだして、司書ルートと法師ルートでは名前は出さずに場所だけたくさん出すとかさ。姉弟の手になる地図と旅籠が繋がる快感が足らない。司書や法師こそが想像(創造)物だとも言えるだろうが、やはり物語の雰囲気は姉弟とは別個の印象が強い。参考資料はForestでもいいけど、むしろ赫炎のインガノック。あの作品は語られない事物、世界観が強く感じられるからこそ高評価なのではないか?旅籠においても語られなかった事物はたくさんあった、または創り得たはず。その匂い、雰囲気が足りなかった……!ここ大事!


令嬢ルートと渡し守ルートは(肯定的意味で)こんなもの。
しかし渡し守ルートは一部残念。
「好きだ」と告白するシーンとその後の選択肢後のエロシーン。
まず告白の仕方がちょっと陳腐、「好きだ。愛している」では時代趣味も活きていない。他のヒロインへの告白シーンとは差別化を図って練りこんでほしかった。
エロシーンは描写が浅い。司書ルートのエロシーンとか良かったと思うが、なぜ一番書くべきところが浅いのか。今更誰が言うまでもなく、エロシーンは感情の起伏において絶対重要だって。ほら、CROSS†CHANNELの周回美希のエロシーンしかり、ひまわり(同人のやつ)のアクアルート然り。
まあこれらは、もしちゃんとしてたら良作じゃなく傑作になるステップになったのに、という文句だから上の云々よりは軽い文句。


創造された世界というのでForestを思い出したが、やはり残念賞。
姉弟によって創られた旅籠。誰もが幼い頃ノートに書き付けるような奇妙や矛盾をものともしない想像力の迸りは目くるめく。というのを書ききれていれば傑作となって、Forest、赫炎のインガノックと強固な世界観において並び評され、並び賞されていただろうに。


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プレイ中途の感想あり。
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