選択肢の効能と即死選択肢の優位性

世界の残酷さを抱きしめて - 物語三昧〜できればより深く物語を楽しむために

こういうシナリオ・ゲームのメディア的特徴は、マルチ・シナリオで、物事って「一つのボタンの掛け違いによる偶然」で、世界はこんなにも揺れてしまうという、「偶発性の恐怖」を表現できてしまうことにあると思うんだ。

って文章を見てふっと考えたので書きます。


選択肢でシナリオが分岐することで物語・世界・恋愛の不確かさを描いているというのは周知のことだろう。
そしてその選択肢をいくつかの型に分けて考えたい。
すると、


1.選択肢で別の物語に分岐
2.どの選択肢をとっても物語が一つに収束する
3.正しい選択肢をとらないと即死(ゲームオーバー)


という3種に分類できるものと考える、ので分類しよう。
選択肢が存在しない作品とかは例外ということでここでは省きます。
便宜的に1を「分岐型」、2を「収束型」、3を「即死型」と呼ぶ。


さて、これら3種類に選択肢を分類して考えると3つ目の「即死型」選択肢こそが最も物語世界を強化するものである。その理由について以下に述べる。


・「分岐型」
いわゆるマルチシナリオである。選択肢の用い方としてはおそらくこれが主流で、冒頭引用したように物語世界の不安定さをプレイヤーに感じさせるというのがその効果である。
引用元の作品は『キラ☆キラ』だが、大半のエロゲの選択肢はこれだろう。


・「収束型」
どの選択肢を選んでも最終的には一つの物語に帰結・収束するような選択肢の用い方である。一見広がりがある選択肢を提示しそれをプレイヤーに選ばせることで、プレイヤー自身の選択で現在の物語がつくられているというように感じさせる。結果的には物語の展開に説得力を与えたり、またどうころんでもこの物語はこのようにしかならないと示すことで物語世界を強固にしたりする選択肢の効用が見受けられる。
エロゲでないがこの選択肢を最もわかりやすく用いているのが『ドラゴンクエスト』シリーズであり、エロゲであれば『CROSS†CHANNEL』などが当てはまろう。作品中では「分岐型」と併用しているが、麻枝准や竹井十日のシナリオで見られる選択肢ギャグは「収束型」と言えるだろう。


・「即死型」
その選択肢を選んだら即死・バッドエンドというものである。
Fate/stay night』や『赫炎のインガノック』が「即死型」選択肢である。最近私がプレイしたのだと『若妻万華鏡 完全版』も「即死型」で、「即死型」の効果が存分に発揮された良いエロゲであった。



3種類についてそれぞれ概観したところで、続いて「即死型」について詳しく述べる。
「即死型」がしばしば否定されることがある。見かけ上のマルチシナリオを提示するだけで、その選択肢の先の物語を書くことを怠った「分岐型」崩れの作品としてマイナス評価される、というのがその理由と思われる。
確かに「即死型」は見かけ上「分岐型」と似ていて、違いは分岐型にある物語の先が無いというだけとも取れる。だがその先が無いという点にこそ「即死型」の効能が含まれている。


「即死型」は選んですぐ即死・ゲームがオーバーになる。つまり物語が終わってしまう。選択肢というものを通じて、場合によっては簡単に物語が終わってしまうのを見せることで、あっけなく終わりうる物語がしかし終わらないで展開していく様を示すことになる。それはとりもなおさず物語がいかに途絶しやすいものかを示すことである。途絶しやすい物語がしかし即死選択肢を避けることで終わることなく続いていくということは、プレイヤーにこの物語が脆く稀有なものであると感じさせる効能があると考えられる。物語の脆さや稀有さというのは感情移入や緊張感に直結する特質なので重要なのです。
この点「分岐型」ではどうなるか。異なる選択肢の先には異なる物語が展開する。つまりどの選択肢を選んでもプレイヤーは作品世界内に留まることになる。これはこれでマルチシナリオとして作品世界の広がりを感じさせる効能はあるだろうが、こと作品世界の脆さ・儚さというのを示すということに関しては「即死型」に任を譲らざるをえないだろう。