『空の上のおもちゃ』 レビュー

再版に関して動きがあるようですね。折角なのでレビュー書きましょう




全体的にはシナリオ構成を特に意識して作られた作品という感じを受けた。
体験版の範囲だと低劣な雰囲気を醸し出すテキストが目に付くと思われるが、下品な掴み→不思議な出会い→仲を育む→友人関係の描写を深める→急展開→急転直下→意表をつく構成→物語の展開と解明→大団円、といったようにとても構成的。
下品だから駄目だということもないだろうし、逆に馬鹿騒ぎに期待し過ぎると肩透かしを食らうだろう。直球勝負のシナリオ物である。


さてその構成はどんな具合か?
素晴らしいとまでは言いかねるがしっかり作られているという印象。ある種のセカイ系な物語なのだが、どんどん広がっていく物語や設定にそこまでやっちゃうのかというやりすぎ感があったり、設定の要素要素がちょっと典型的にすぎるところがあって賞賛まではできなかった。しかしかなり大きく広げた風呂敷を畳んでいるだけに、クリア後には安堵感がある作品である。


構成は上述のようにぼちぼち。では何が良いか?
絵と奇想はかなり良い。
原画と着色はkashmir。『百合星人ナオコさん』『○本の住人』『デイドリームネイション』などの漫画の連載が現在も好調な作家だが、本作もファンなら押さえてしかるべきであろう。堪能できる。
ファンの贔屓目を取っ払ってみても、全部とは言わないが一枚絵のいくつかはシナリオの奇想とあいまって面白味とおかしさの同居する曰く言い難い絵に仕上がっている。


そう、今作は奇想的にすばらしい箇所がちらほら。
具体的には「絵を描いた画用紙を花に形づくり交合するしっぽ」だとか「月をしっぽで引っ張り寄せる」場面だとか。「地球にぶつかりそうなほど近づいた月」というのもありがちだが、絵とあいまって悪くない。反対に真っ当にシナリオとして勝負しに行った部分、例えば「辛い境遇に願いを失った少女」だとか「人の苦しみを受けて願いを生み出す」などはどうもありがちな印象が先立った。
あと『2001年宇宙の旅』パロディのあれは笑った。


声。
城谷春野というキャラの声が良い。声を作りすぎな感もあるがそれが活きている。他はぼちぼち、慣れればという。


音楽。
曲はおおむねぼちぼち。タイトル画面で流れる音楽の出だしの音色が耳障りだったのが悪印象として残っている。歌はまあねえ。




・まとめ
見た目より真面目なシナリオ物。
ネタを割らずに紹介しにくいシナリオだが「しっぽの生えた女の子のセカイ系」と聞いて興味があればぼちぼち。
シナリオはやたら広がるが丁寧につくられた作品ではある。


◆空の上のおもちゃ◆(半端マニアソフト)