『ている・ている』 感想


傑出した雰囲気ゲー。キャラクター同士の係わり合いの書き方が非常に上手い。浸るタイプの物語だが深読みする余地もある。


モノノケの住まう館にやってきた新人獣医師の主人公。薀蓄たれの主人公とモノノケとの交流が描かれる。
本作は雰囲気ゲーなんだが、その一言にはおさめたくないほどキャラクターに魅力がある。
シナリオの良い点は3つ。まずキャラクター。キャラ自体の魅力もあるが、主人公がいない場所・時間でもキャラクターが動いている・物語がある、というのが強く感じられるのが良い。
2つ目は舞台設定の描写。物語は1つの館の中での交流に始終するのだが、館をキャラクターが駆け回るのを通じて館の中にモノノケたちが生活している感じが伝わってくる。これには選択肢で館の中を行ったり来たりする、ともすればやや冗長なシステムがプラスに働いていると思われる。
3つ目は薀蓄。これは主人公のキャラ性とも関わりが大きいんだが、随所に挟まれる薀蓄が物語の色合いを大きく決定している。薀蓄や主人公がかなりまともというのも評価材料なんだが、薀蓄(特に西洋系)を語るような主人公というのが物語自体に大きい意味がある。というのは、普通の人物だと、東洋系のモノノケたちの歳月と世界観に圧倒されて、ただ気づいたら恋愛してました、となるところを、本作品はモノノケと主人公(獣医師)は切り口が違うだけで同じ立場にいて、だから西洋医学の徒としてモノノケに対するまでだ、というのを明確に示している。そのため主人公がモノノケに(立場的にもキャラクター的にも)負けていなく、そこが物語の原動力になっている。ただこの設定のせいで愛を語るシーンが珍妙な味わいになっていて人を選ぶのもまた確か。


声。良い。演技が巧みというわけじゃない、むしろ棒よりな人も数人いるが、にくめない。演技付けがいいのかもしれない。


音楽。功績は大きい。ゲームミュージックの域を出ない曲作りではあるが、メロディーラインがかなり上手くて全体的に嫌味がない。


シナリオは前述した通りいいんだが、3章終盤から最後は唐突で端折ったみたいなのがもったいない。終わりは唐突であったとしても、特にぼっこの辺りはもうちょっと書いてほしかった。またエンディングがいくつかあるが、シナリオ的に実質単一エンドで分ける必要が感じられないのはプレイしていて嬉しくない。


深読みする余地ってのは、主人公の盲目だった過去とか千影とかぼっことかラルフと過去のモノノケたちとかといったあまり語られないまま取り置かれている挿話のこと。まあこれは語られていないからこそ味がでるものかもしれない。


本作の良さはライターが企画もやったって辺りに由来するのかなとライターの作品履歴とブログ見て思った。もしまたそういうのを作るなら期待できよう。ライターの趣味や意気込みが感じられるゲームは良いですよね。
なお公式でごく短い小説も公開されている。


http://www.orbit-soft.com/product/clover/tailtale/tailtale.html
中中堂 シナリオライターのブログ