『暗い部屋』 レビュー


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暗い部屋
暗い部屋
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暗い部屋制作委員会
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唐辺葉介の発禁小説が同人ソフトとなって帰ってきた、という本作だが・・・発禁やむなしという気もやや・・・(訂正:発禁じゃなくて発売中止でした)。
分量は普通に小説一冊ぶんくらいだったと思います。公式通販の特典である短編小説は39ページ。


シナリオについて。
小説版『CARNIVAL』に出てきた家出少女サオリの話を別の角度から再構築したらこんな感じになるかな、というような物語。
PSYCHE』が唐辺葉介の上澄みを掬い上げたような作品とすると、『暗い部屋』は唐辺葉介を放置して分離したあとの第3層あたりを掬い上げた感じ。唐辺葉介のあの部分(不信感、とでも言おうか)がたっぷり詰め込まれている。
で、出来はどうか?
まず過去作であった打ちのめされるようなショックを受ける部分が無かったのが意外であった。私と作品の相性かとも思ったが、「供述」という形で語られる物語の構造が大きいかもしれない。供述、つまり過去形で語られる物語であるためどこか語り手の心の凪いだ部分があって、それが這い寄る感覚は覚えさせつつも過去作にあったような急に迫り来て胸を打つ感じ(『PSYCHE』の最後であるとか『犬憑きさん』の冒頭犬を餓死させる場面や管狐が消える場面など)がなかったのにつながっていると思う。ただそれが悪いと言うようなものではなく、単に構造の違う作品だから違う読後感となったというふう。これはこれで。
あと、グラフィックとBGMがやけに良かったせいで、かえってそちらに雰囲気を固定化されている感もあった。仮にもっとおどろおどろしいBGMが続けば『CARNIVAL』みたいな雰囲気になったかもしれないなあとか。


公式通販特典の短編小説は、

内容は僕が大昔に書いた小説で、まあ読んでも読まなくてもどっちでもいいような気が、僕はします。

唐辺葉介のブログにあるが、確かに若書きらしい感じ。唐辺葉介がお酒を飲んだ上で一発書き推敲なしならこうなるかな、という様相。題材や内容はともかく、文章が唐辺葉介の他の作品ではちょっと例えにくい感じでした。


今作は個人的に、瀬戸口廉也唐辺葉介も「光」とか「脱出」とかにこだわりがあるのだと気づかされるところがあった。あからさまにそういうのが多い今作を見るまであまり意識していなかった。『SWAN SONG』で言うと、最後の雪崩のあとに青空が覗くが、あれは青空というよりも光が射すというものだったのかしらとか。『PSYCHE』で部屋のカーテンの隙間から差し込む光を云々というシーンもあった。抜け出ると光を感じる、というそんな単純な部分にあまり目がいっていなかった。
パソコンのモニターという光を放つものを媒体として読書するせいか、まぶしい画面に慣れてしまって物語中で描写される繊細な光の加減に鈍感になっていたかもしれない。唐辺葉介は「光」に対して鋭敏、明晰なんだと思って見てみると色々と光を感じる場面の多いことに気づかされた。




・まとめ
語りの形式が過去作とは微妙に異なる雰囲気を決定づけているが期待を裏切らない内容。グラフィック、BGMはかなり良い。
小説一冊ぶんの分量、暗い題材、萌え絵なしでも良い人向け。




カメラ・オブスクラ - Wikipedia