樺薫「藤井寺さんと平野くん 熱海のこと」(ガガガ文庫) 感想
- 作者: 樺薫,アメイスメル,坂口安吾
- 出版社/メーカー: 小学館
- 発売日: 2008/06/19
- メディア: 文庫
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野球の比重が大きいわりに樺薫の良さがどうも出ていない作品。
評価するのが難しい。
樺薫の近作とは色々異なる。
この作品は基本的に坂口安吾の「投手殺人事件」の跳訳だが、その「投手殺人事件」が浮いているというか、継ぎ接ぎされたようなシナリオというか。
複数ライターのゲームのように質にむらがある。
別の作品から探偵などのキャラクターも跳訳しているのだが、媚が強くて個性が薄い仕上がり。
キャラ造形はうまいと思っていたので、そんなある意味普通のキャラを書いているという点で逆に驚いた。
オリジナルキャラのほうは問題なく良い、いつもの樺薫のヒロイン。
胸胸連呼されたので、途中までは野球と胸だけで構成された作品になるのかと思った。
ものがものなら母乳もの。
そも跳訳に向いてないのではということになろうか。
で、樺薫の良さについて。
キャラクター同士の迂遠な掛け合い、行間だけで会話するような雰囲気のやり取りがこの著者の得意技であり魅力の一つである。
「めいたん」を含む近作のどれにもあったそれが、今作ではどうも見受けられない。
全部が同じでなければならないと言うつもりもないが、この著者の心理描写として切り離せないものだと思っていたので想定していなかった。
好きな期待していた部分が思いのほか少なく残念という読者の我儘とも言いかえられよう。
著者本人が書きたいと言い、読み手も期待しているであろう野球関連だが、読み始めの印象
に比して全体ではそこまで多くない。
作品の主幹が「野球」というよりやはり「投手殺人事件」だからかもしれない。
とまれ、野球について書いている部分は期待に違わず申し分なく素晴らしい。
いつか樺薫が野球ものの傑作を書いてくれるという期待は「藤井寺さんと平野くん 熱海のこと」読了後も変わっていない。
まとめる。
「跳訳」であるために肩透かしを食らったような作品になっているが樺薫らしい良さも出ているため、全体としては曰く言い難い。
野球に関しては今作も素晴らしい。
同じガガガ文庫である「めいたん」と比べるなら基本的に「めいたん」のほうが薦められる出来だが、野球を扱っているというただ一点によって「藤井寺さんと平野くん 熱海のこと」は捨て置けない。
以下ネタばれではないが、あとがきに関わること。
今作で一番驚いたのは、あとがき冒頭「第一巻」の言葉。
あとがき最後も「二冊目でお会いしましょう」と締めてるから間違いはないんだろうが。
次作はキャラだけ安吾翻案を継続してオリジナル野球小説です、とかだったら期待はいや増すが。
参考用リンク
・樺地。
・近鉄オリックス合併についての断章
・図書カード:投手殺人事件
・図書カード:能面の秘密
・HentaiJapanimation4seasons | 黒白キューピッド 簡易感想リンク集
・藤井寺球場 - Wikipedia
・平野謙 - Wikipedia