『Rewrite』レビュー

全面的に田中ロミオっぽい作品であった。しかしロミオ作品としてみると、悪い意味で「どうしてこうなった」と言いたくなる。


ネタバレ注意。














最果てのイマ』chapter3,4が読める日が来るなんて!、というようなストーリー。しかも物語の規模はイマよりさらに拡大していると言ってもいい。そんな読む前から10年に1つの傑作となることがわかっているような状況で、出てきた作品は紛うこと事なきロミオな上にシリアスに煮詰められた素晴らしさで満ちていて、しかしどうプレイしても傑作未満。プレイしている最中の感触がロミオ作品の中でもだいぶ悪い。なんでこんなにおもしろそうな作品を傑作だーっ!という盛り上がった気持ちでプレイできないのか、なんということだという。


原因は、音楽・声・演出・シナリオ分業。
以下個別に。




音楽。
陳腐。曲自体がよくないものもあったけど、それよりシナリオとの劇伴としての組み合わせが目立って陳腐。もっと言うと、そもそもBGMの発注がおかしかったのではという印象。その陳腐さが分かりやすく現れていると思うのは2番目のOP曲。あんな曲調が適しているようなイケイケな場面は、少なくともロミオシナリオの中にはなかった。
端的に言って、単純なBGMが多すぎた。
単純な曲が悪いということは決してないが、ロミオの世界観やキャラクター造詣には合っていなかった。キャラクターと対応するBGMは好ましいものが多かったように思うが、戦闘場面で多く用いられたBGMが良くなかった。ちはやルートのようなもので用いられるならRPGなんかで流れていそうな典型的な戦闘BGMも良かっただろうが、それが朱音ルートやTerraなどで用いられているのは雰囲気を著しく損ねていた。分かりやすいBGMは場面の読みを固定化してしまう。個々のキャラの考えの正当性や葛藤を重ねて辿り着く物語終盤の割り切れない戦闘場面で覇道を歩むようなBGMを鳴らすだなんて、そこまでのシナリオの積み重ねはなんだったというのか。いちおうBGM聴いてプレイしたが、再プレイするなら間違いなく切る。
あとシナリオ中の「歌」について私がさぞ低評価をしているだろうと思われているかもしれないが、そうでもないです。あれはあんなものかと。「歌」の場面で流れるBGMが意外とましだったとはいえ、ちょっと音律を感じさせすぎる、単旋律の聖歌っぽくつくった今風な曲の枠組みの中だったので、ある程度シナリオでの描写に準拠したBGMを流すというのなら、もっとドローンとかお経みたいにもっと一つひとつの音を引き延ばして音律が表に出ないようにするとか、じゃなきゃミュージックコンクレートとか、なにかもっとあったのではないかなあとは。もちろんシナリオ中の「歌」とはまったく違うBGMならそれはそれで良かったけど、実際にはだいぶシナリオに寄り添ったBGMが使われていたから考えるところ。文章のほうは、歌が世界に働きかける初動の部分は描写されなかったし全般的に突っ込んだ描写は抑えてあったので、下手に書いて歌が音響兵器みたいなことになってるわけでもなく、あまり言うところはないかと。ああいうことを書こうとして抑えたのかなあ、などと想像する余地を覚えるという点は好意的にすぎるだろうか。
そうそう、EDテーマ曲に多田葵は合っていなかったと思います。麻枝の曲は歌うためにはあまりにも不自然な音の動きをする曲が多いけど中でも今回の曲は歌いにくい曲で、そんな歌いにくく音が細かく動く曲には多田葵はあっていなかった。多田葵の発声はノンビブラート系で歌手にしてはやや声優よりで、音を伸ばして歌うフレーズでこそちょっとおもしろい響きにつくった声が映えると思うが、そうした発声の方向性にはまったくあっていないED曲であって、なぜこれをこの歌手に振ったのかという。



声。
演技はおおむね良かったかと。小鳥と江坂が特に良かった。またエロゲで聴く老婆キャラの声は不自然なものが随分多いけど、加島は悪くなかった。
ただ主人公の声がしっくり来なかった、のは大きかった。演技が云々という理由もなくもないのかもしれないが、おそらく一番の理由は個別ルートでは主人公音声がないのにMoonとTerraで声があること。途中から声を聴いたら、そりゃあ前半プレイ時とのイメージの齟齬が大きくて苦しくなるだろうという。最初からフルボイスだったらまた違ったかもしれないが。私は途中で主人公音声だけ切った。
あとルチアの「天王寺胡太郎ーーー」というがきつかった。フルネームによる叫びの呼びかけは文字で読む分には結構気にせず読めるのだが、音声ありで叫ばれると名字や名前でなくフルネームであることの違和感というかわざとらしさが大きくてきつかった。そこまでして主人公の名前をプレイヤーに覚えてほしいのかと思えてしまう。




演出。
戦闘関連の演出はもうちょっとなんとか。能力使用時のエフェクトも『Forest』を思えばもっとかっこよくできる余地は色々あったのではと思えてくる。




シナリオ。
ちはやルートはひどかった。『Rewrite』の設定自体は悪くまとめれば能力者バトルで、それを土台とした物語なためともすれば陥りそうな単純でよくある展開をロミオは完全に避けて通ったが、その避けて通った部分に真っ正面から足を突っ込んで落ちたのがちやはルート。ちはやルートに限って言えば駄作もいいところでないほうがましだった。
あと私はルチアルートはほとんどスキップで流し読みしました。朱音ルートの次にルチアはキャラクターがあまりにずれていて読まなかった。プレイした順番が悪いかもだけど、残りがルチアルートだけだったのです。
そう、問題の原点は全ヒロインクリアしないと先に進めないルート構成にこそあるかと。
全ヒロインクリアする前提にしたようなシナリオ構成だし、シナリオを読み進めると咲夜が思いの外重く扱われていたりするので、特にちはやルートなどはすっぽかすわけにはいかない。しかしシナリオの実態は前述した通り、ロミオが避けようとした点をことごとく踏み抜いて展開するもので、このシナリオだけで作品として提示するなら好意的な見方もできるのかもしれないが、ロミオの世界観が主体となっている『Rewrite』にはないほうが良かったと言っても過言ではないはず。
そんな相反するようなものが個別ルートにあるせいで、個別ルートがMoon、Terraへの前提として適切に機能していない。Terraが個別ルートの積み重ねありきのシナリオであるため、前提としての個別シナリオにひどいものを抱えてしまったことが、Terraを、ロミオのシナリオを損ねた。
シナリオ分業のせいで中心ライターの構想の重要な部分が損なわれるのは珍しくないだろうが、構想が損なわれてもそれはそれでおもしろくなっている作品もまた珍しくない。しかししかし、『Rewrite』に関しては損なわれたものはそのままプレイ感に反映されて、傑作になりうるストーリーなのにどうも乗り切れない作品へと昇華してしまった。




まとめて書くと、
Rewrite』をロミオの世界観とストーリーが中心の作品としてみたとき、主に戦闘場面のBGMとロミオ以外のシナリオライターによる個別ルートの2つが、ロミオの構想やストーリー展開の意図を理解していないのではないかと言いたくなるほどにシナリオを損ねるものであった。そのためか、傑作たりうる物語でありながらもプレイ感はあまり良くなく、没頭しにくい作品に仕上がっていた。
あとBGMがひどかったことを思うと、麻枝のBGMこそがKeyでは大きかったのではと考えさせられる。またKeyの演出と都乃河の評価は前から高かったわけではないがあらためて下がった。




・まとめ
田中ロミオ竜騎士07、Key、そのどのファンも得しない作品。ただしライターは名前に見合ったシナリオを書いてはいるので最低限のファンの欲求は満たすものであるはず。
制作側がロミオのシナリオを理解し切れていなかったのではないかということが端々に現れている。
おたく☆まっしぐら』と『最果てのイマ』の評価が相対的に挙がる一作。