コルトー、スゼー「詩人の恋」ほか(GDFS0020)

シューマン・ライヴ1950'S

シューマン・ライヴ1950'S

ピアノ協奏曲、歌曲集『詩人の恋』 コルトー(p)スゼー(Br)フリッチャイ : シューマン、ロベルト(1810-1856) | HMV&BOOKS online - GDFS-20



スゼー、詩人の恋ともに評価を改めるような素晴らしい演奏であった。


ルフレッド・コルトー/ジュラル・スゼーによるシューマン作曲「詩人の恋」。録音は1956年。コルトーは晩年、スゼーは壮年。音質はこの年代としてはこんなものか。ノイズは少ないが時折歪みが入る。


シューマンのピアノ協奏曲イ短調と詩人の恋が収録されている。
前者については語れるほど理解していないので、このレビューは後者のみを扱う。



まず「詩人の恋」だが、これは録音に恵まれていないと考える。よくヴンダーリヒの録音が持ち上げられているが、私はあれは評価しない。まあそもそもヴンダーリヒを評価していない。「詩人の恋は」個別に曲を見ると凄くキャッチーなのに、あまりにもキャッチーすぎてかえって演奏の難しい曲になっている。おまけに第7曲までと第8曲以降の曲調が離れていて、歌曲集を通して見てもまた難しい。フレーズの良く出来た曲であることは衆目が一致するだろう。だがこんなにフレーズがきれいなら誰が歌っても良い演奏になりそうと思いきや、誰が歌ってもフレーズに歌が負けてどうにもならないという。
で、この録音だが、私が今まで聴いた演奏(8種類くらい)ではベスト級。全般良いが、第8曲目以降の演奏に関しては目から鱗が落ちるほど感心する出来だった。数聴いたのにどうしてもピンとこなかった「詩人の恋」がこの演奏で随分得心した。
何よりもスゼーの解釈が頑張っている。スゼーについては、良い持ち声に胡坐をかいていて大したことないという印象があったのだが、この録音でその評価を改めざるをえなくなった。例えるならフィッシャー=ディースカウとプライの良い所を合わせたような演奏。キャッチーなフレーズに負けないような繊細な解釈でありながら解釈に溺れず、声の響きを活かすべき所ではちゃんと活かしている。コルトーのピアノは年齢を感じなくもないが、それも含めて良いのだと思う。「詩人の恋」は前述のように難しい曲で、しっかりかっきりした演奏をして、しかし演奏が曲に負けている録音は多々ある。果たしてコルトーのピアノが含む若干の揺れを「老い」であると言っていいものかどうか。